野草とともに

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べにばないちやくそう Pyrola incarnata イチヤクソウ科 Pyrolaceae

べにばないちやくそう Pyrola incarnata イチヤクソウ科 Pyrolaceae 1953年私が有機薬化学の研究室に配属された時,いちやくそうの研究をされていた先輩に,“これはとてもよい草だよ”と教えられた。私はその時から一度見たいと思いつつも,その機会がなかった。40年以上もたった1995年7月9日,黒姫高原の牡鹿池の近くの,時々熊が出るといわれている森蔭の小道でこの草を見付けた時は,本当に感激した。
いちやくそう(一薬草)のいわれは定かでないが,一番よく効く薬草であるとか,この草が一夜で現れるので一夜草というのが段々に変化したという説もある。普通いちやくそうといわれているものはたいてい白い花をつけるが,このべにばないちやくそうはピンク色の花をつける。
属名のPyrolaは,この属の植物の葉が梨に似ているから,と独,英の植物名の解説書に書かれている。種小名のincarnatus(a, um)は肉色とか肉紅色の意味であるが,日本人の感覚ではあまりピッタリしない。和名で紅花としたのはよかったと思う。
いちやくそうの花期の全草を乾燥したものは鹿蹄草とよばれる漢方薬で,●じて脚気の時などの利尿剤として用いられている。民間では生葉をもんで,虫さされや,傷口に張りつけている。べにばないちやくそうは中国では,全草を乾燥して,紅花鹿蹄草として,リウマチ,腰痛や種々の皮膚病,痔出血などに用いられている。我が国では産出量も少なくて,とてもこんなことに使えない。一般にいちやくそう類は山草家が観賞のために栽培を試みているが,菌根植物で菌類と共生する必要があり,条件をつくるのが難しくて,長期栽培は困難とされている。
イチヤクソウ科はイチヤクソウ属(Pyrola属)に属する植物が一番多いけれども,他属には,葉緑素を持たず,山地の林下に生じ,幽玄な印象を与えるぎんりょうそう(Monotropastrum globosum)がある。
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