野草とともに

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くず

くず くず(葛)は、8世紀の半ばに成立した万 葉集の中で、山上憶良が“秋の野に咲きたる 花を指折りて、かき数ふれば七草の花。萩の 花、尾花、葛花、なでしこの花、女郎花、ま た藤袴、朝がほの花”という歌を詠み、秋の 七草の一つとした。
これによっても、日本人 は随分、古くから、この草を愛していたこと がわかる。秋の七草の一つとはいえ、葛の花 が見られるのは盛夏ともいえる8月の中旬で、 このスケッチも、メモによれば8月18日 (1998)とある。私の住んでいる宝塚の マンションの前を流れる白瀬川を少し遡った 土手に何箇所も群生していて、裏白の大きい 葉で覆いかぶさっているのが、遠くからでも 見分けることができる。この紅紫色の美しい 花は密生して總状の花序を立てるが、大きい 葉蔭に身を潜めているので、見逃されてしま うことも多い。  

しかし、この花は何ともいえないよい匂いがしていて、日本人が昔からこの花を愛したことも宜なるかなと思われる。それに、この草は、なかなかの有用植物で、もっともポピュラーな漢方薬の一つの葛根湯は、この根を 乾して、刻んだものを主薬としている。地下茎からクズ澱粉を採ることは、昔は方々で行われていたが、その製造工程が厄介なためほとんど見られなくなり、最近では、その最高級品の吉野葛が、奈良県榛原にある森野草園で行われているにすぎない。また蔓からとられた繊維は葛布に織られ、上代には、庶民に丈夫な衣料を提供したといわれている。葛の葉は栄養価の高い飼料として、既に明治時代に種子がアメリカに送られ、飼料の他、荒地の改良など用いられたが、現在ではあまり繁殖しすぎて、その駆除に手をやいているという。我が国でも葛の進入が公害の指標とされたことがあり、今では強害草として、専ら駆除の対象となっている。江戸時代に葛蔓延の害についての記録があったとも聞いたことがないから、この古来、日本人に役立った草とのバランスのとれた共存が望めないものだろうか。
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